コミュニティ型賃貸で空室率対策を
日本でもお馴染みとなった「シェアハウス」。
これは、専用の居室と共用スペ-スに区分けされており、浴室やトイレ、キッチン、リビングなどを共同で使用する住宅のことを言います。
共用部分が多く、個室部分の建設費用が節約でき、安価な家賃で提供できる、入居者にも投資家にもメリットがある住居形態です。
近年になって「コミュニティ型賃貸」という進化したシェアハウスが登場しています。
1.住む人を主役に考えたコミュニティ型賃貸
コミュニティ型賃貸住宅は、シェアハウスにコミュニティの機能を付加した住宅です。物理的には、シェアハウスよりもコミュニティスペ-スを広く設けたり、各居住者が共同でイベントや作業ができるような配慮がしてあります。
シェアハウスは、ブ-ムで、物件数が増加してきましたが、現在はピ-ク時期を過ぎ、ここ3年ほどは、淘汰されています。しかし、物をシェアする文化が根付いたため、ブ-ムが終わっても、シェアハウスはなくならず、人との繋がりが強くなり、新しい形のシェアハウスへと変貌を遂げつつあります。その1つが「コミュニティ型賃貸住宅」です。
新築の物件はまだ少なく、築年数の経った物件をリノベ-ションした物件が大半を占めますが、中には入居希望者が常時100組以上入居待ちをしている物件もあります。築古物件の空室が埋まらない供給過多の現在、付加価値の高いコミュニティ型賃貸は、競争力を備えた新しい発想住宅なのです。
2.コミュニティ型賃貸の先駆け「青豆ハウス」
2-1平和台の住宅地の風景に馴染むコミュニティ型賃貸住宅
「青豆ハウス」は、東京都練馬区にあるコミュニティ型賃貸住宅です。2014年に区民農園の隣地に建設。構造は木造3階建てで、トリプレット(3フロアに1世帯の住宅がまたがっているタイプ。メゾネットの3層版)を2棟ずつ、絡まり合うように配し、全8世帯の共同住宅を新築で作りました。
豆の木が空に向かいすくすく伸びる様子をイメ-ジして作った建物は、のどかな風景が広がる練馬のイメ-ジにぴったりです。2つの棟は、2階部分が共用のデッキテラスで繫がり、住戸の2階部分が玄関とリビング、1階は寝室とバスル-ム、3階は居室という間取りです。
物件は、60平方メ-トル前後で家賃166,000円~。このエリアの相場に比べると、かなり高めの設定となっていましたが、竣工前に満室になりました。
2-1住まうことを愉しむための住宅
「青豆ハウス」のコンセプトは、「育つ賃貸住宅」。「賃貸だからこそ、住まいをもっと愉しんでほしい」「住む人、集まる人、みんなで育てる共同住宅にしたい」という大家さんの想いがきっかけで始まったプロジェクトです。
1階の共用部分にはピザ釜や流し台があり、みんなでピザを作りながらパ-ティ-をすることが可能。2階にある共用デッキに8世帯すべての玄関を配置し、自然に入居者同士が顔を合わせやすいように工夫してあります。
1-3集まったのは、暮らした後に楽しめる住宅を求めていた人
一般の賃貸住宅も含め、部屋選びのときに気になるのは「隣にどんな人が住んでいるか」です。近隣の住人とうまくやっていくことは、生活していくうえで重要なことだからです。不動会社には、居住者の情報はありますが、住んでいる人の考え方や雰囲気を知ることはできません。
「青豆ハウス」は、同じ考え方を共有できる人に入居してもらうため、大家さんたちは、入居者募集の開始から建築完成まで、たくさんのイベントを開催しました。上棟式での餅まきイベントやおむすびづくりを楽しむ「豆むすびの会」、入居前のDIYワ-クショップ、完成時の「おひろ芽マルシェ」など、住みたい人や関心のある人、街の人々が一緒になって楽しめるイベントが行われました。
イベントに参加すれば、大家さんから直接「青豆ハウス」のコンセプトを聞くことができ、住宅に対する「想い」を共有することが可能です。また、入居を検討している人は、話を聞きに来た、自分と同じ立場である入居検討者も顔を合わせられるので、どんな人が入居するのかが少しずつ分かってきます。そうやって同じ「想い」を抱いた人が自然の流れの中で集まり、「青豆ハウス」は形になっていったのです。
3.コミュニティ型賃貸経営の注意点
コミュニティ型賃貸経営の家賃は同じ立地、築年数のリノベ-ション物件に比べ家賃を高めに設定しても、入居付けが可能です。失敗しないためにはどんなことが必要でしょうか。
3-1同じ感性を持つ入居者を集める
「青豆ハウス」の場合、大家さんや事業主体となる企業が、建築計画が決まってから入居に至るまでを詳細に特設ペ-ジやSNSで発信しました。日記のように細かなことまで掲載することで、街の人たちや閲覧者の共感を得て、見守られる存在にまでなりました。
イベント開催は、単なるPR効果にとどまらず、入居審査の役割も果たしています。コミュニティ型賃貸経営を成功させるためには、入居者同士がうまく付き合っていく必要があります。人と人との関わりが多いため、大家さんや企業と同じような考え方の人を集めなくてはなりません。
大家・事業者が面接を行うことなく、このようなイベントを通して自然に同じコンセプトに合った考え方の人たちが集まり、申込したことが、「青豆ハウス」が成功した理由と言えます。
3-2維持管理費は思った以上にかかる
物件の維持管理は、共用部分や備品が多いために、素人の大家さんが行うのは手間がかかります。管理会社に委託をする管理費は、通常の賃貸物件だと家賃の5パ-セント程度が相場ですが、コミュニティ型賃貸の場合は、シェアハウスに準じますので、管理費は賃料の20パ-セント~30パ-セント程度がかるようです。リフォ-ム代や備品や設備の維持費も大目に見ておくべきです。
また、委託しようとしている物件が、管理会社の規定に合った広さ、個室の数、設備や備品の内容、入居者属性でないと、管理を受けてもらえない場合があるので注意が必要です。
4.まとめ
現在のコミュニティ型賃貸住宅は企業が管理・運営する「事業体介在型」がほとんどです。
事業者が主体となり、付加価値の部分のコンセプト作りをしています。
今後は入居者同士が自らアイディアを出しあい、1つの住宅を作り上げるスタイルに移行することが予想されます。