手付には3種類あり、その中でも解約手付が契約に盛り込まれることが一般的です。この記事では解約手付について詳しくお伝えしながら、他の2つについても紹介します。
また住宅ローン特約や手付金と申込証拠金の違いについても解説しているので、トラブルを避けるためにもこれから不動産契約を控えている方は必読です。
1.不動産の手付金とは
不動産取引では売買契約を結んでから実際に土地や建物を引き渡すまでに期間があきます。ゼロから家を建てるような場合は半年近くかかることもざらです。そこで契約成立の証拠として利用されている側面もあります。
高額な取引なうえ、期間もあくとなると一方から勝手に契約をキャンセルされると大損害になります。そこで買い手も売り手も勝手に契約を向こうにしないために、そして万が一契約解除されたときの担保としても手付金を払うことが多いです。
そのため、基本的に手付金は売買金額の一部ではありません。手付金は契約した取引金額を支払うときに、売り主から返還してもらうものです。ですが、実際には払った金額のうちから一部を返還するという手続きが面倒なため、契約書に「手付金は、残代金支払いのときに売買代金の一部として充当する」というような但し書きが書かれることが多いです。
不動産における3種類の手付金
「手付金」とひとまとめにされがちですが、実は大きく3つに分かれます。解約手付、違約手付、証約手付です。
それぞれ説明していきます。
解約手付
解約手付は、一度結んだ契約をどのような理由だったとしても、あとで解除することができる手付金のことです。ただし解約するためには手付の放棄か手付の倍額の償還によって相手を補償するする必要があります。
通常、契約を解除するためには双方が納得する契約解除の理由が必要です。自由に契約解除できてしまうのであれば、契約の効力が弱くなってしまうからです。
そのため不動産の契約でいえば、債務不履行や売り主の担保責任のような法律上の解除原因が発生するか、契約成立後に当事者(売り主と買い主)が契約解除に合意することが必要です。
そして無理に契約解除しようとすると、損害賠償責任が発生するのが普通です。ですが、解約手付を支払い、手付を放棄することで法律的にも手付相当額以外の損害賠償責任はないとされています。
たとえば、売り手にとっては今の買い手よりも高い金額で購入するという人が現れたら、そちらに売りたいと思います。だからといって、その新しい買い手に売ってしまうと二重売買となるので、売ることはできません。そこで解約手付を契約に盛り込むことによってこのような場合に(法律的には)円満に、契約を解消することができます。
また買い手も売買契約を結んだあとに、もっと他に安い物件やいい物件が見つかったときに手付を放棄することで、円満に契約解除することができます。
このように本来なら厳しいはずの契約関係を、煩わしい手続きなく解消できるものが解約手付です。
注意点
ただし手付の放棄による契約解除は売買契約を結んでから家が引き渡されるまでずっと利用できるものではありません。契約相手が「履行の着手」を行った時点から契約解除ができなくなると民法で定められています。
そして履行の着手とは、「客観的に外部から認識し得るような形で履行行為の一部をなし又は履行の提供をするために欠くことのできない前提行為をした」ことを(最高裁昭和40年11月24日判決)いいます。
判例のため難しい言い方をしていますが、具体的に言えば、たとえば、売り手が契約を勧めるために他人の不動産を取得して登記を得たり、買い手が代金を用意して売り手に引き渡しを求めたりすることです。
不動産の取得や、代金の用意をしてからの引き渡しの催促は契約履行に欠かせない前提行為だと判断されています。一方で、代金を支払うための準備をしただけでは履行の着手には該当しません。
何をもって履行の着手と判断するのかは、手付の金額や行動の時期、契約解除の伝えたタイミングなど様々な要素から総合的に判断されます。
もしトラブルになったら、迷わず弁護士に相談することが大切です。決して自己判断で進めてはいけません。
また売り主が宅地建物取引業者であれば、その売買契約で書かれる「手付」は「解除手付」の性質であると宅地建物取引業法第39条2項に定められています。そのため、明確に別の種類の手付とされていない限りは「手付」という単語には「解除手付」の意味が与えられることになります。
違約手付
違約手付は支払ったとしても、解除手付のように比較的に自由に契約を解除できるものではありません。
違約手付は相手方に契約違反があった場合に、損害賠償とは別に違約の「罰」として没収することができるものです。そして違約手付が没収されるだけではなく、違約によって契約相手に損害が発生した場合、さらに損害賠償責任があります。
たとえば、契約後、引き渡しまで終えたのに残代金を支払わないというようなときには債務不履行となり、手付が没収されるだけでなく、損害賠償も支払うことになります。通常の契約では、契約解除に伴う損害賠償額が設定されていますが、違約手付を利用することによって定められた損害賠償よりも高い金額でも没収することができます。
契約がしっかりと履行されるために、買い手の勝手な理由で契約解除されないような厳しいルールとなっています。
証約手付
売買契約が成立したことを証明するための手付です。
不動産取引のような高額な取引では、実際に締結されるまでには様々な交渉が行われます。そのため、どのタイミングで契約が成立したのかがわかりにくいという側面があります。
売り手は契約が成立したと思って話を進めていたのに、買い手はまだ交渉段階で契約をしたわけではないと思っているような場合、トラブルが頻発することになります。
そこで、いつ契約が成立したのかを証明するために証約手付が用いられます。
ですが先ほどお伝えした解約手付にも証約手付のような意味合いは含まれているので、不動産取引においては証約手付が利用されることはほとんどありません。
3.不動産の手付金の相場
手付金の金額は法律で定められているものではないですが、売買代金の10%前後になるのが一般的です。
また売り主が不動産会社の場合は、手付金は売買代金の20%以下になるようにしなければならないと法律で定められています。これは個人や不動産会社以外の法人であれば当てはまりません。
10%と聞くと少ないように感じますが、不動産は高額になることがほとんどです。不動産売買の場合は4,000~5,000万になることもよくあるでしょう。
そうなると10%でも400万円です。解約手付は手付金を放棄することによって、損害賠償責任なく契約解除できるものですが、400万円を放棄できる人はそういないでしょう。
解約手付を支払うことで簡単に契約解除されてしまっても、双方にとって困るので、10%とはいえ、放棄するには惜しい金額で設定されています。
4.不動産の手付金は返金される?
不動産の手付金が返金されるケースは、あなたが契約解除「された」場合です。売り主の都合によって手付倍返しなどが行われた時には手付金は返金されます。
そしてあなたから契約を解除した場合は、手付金は返金されないのが原則です。しかし、「住宅ローン特約」の場合は契約解除したとしても手付金は返金されます。
ほとんどの方が家を購入するときは住宅ローンを組みます。そして買い手がローンを利用する場合、融資よりも先に手付金の受け渡しがあります。
そのため、買い手に購入の意思があったとしても住宅ローンの審査が通らなければどうすることもできません。住宅ローンの審査が通らなかったという理由で、買い手都合の契約解除により手付金が没収されては、安心して契約を決断できません。
ですがこのような場合は住宅ローン特約が適用されます。住宅ローン特約によって損害賠償を支払うことなく契約解除でき、手付金も返還されます。
ただし、住宅ローン特約が適用されるのは契約書に住宅ローン特約に関する記載がある場合のみです。普通の不動産業者と取引する場合は、住宅ローン特約の項目が記載されていますが、それでも念のために契約書はしっかりと確認しましょう。
住宅ローン特約がなければ、ローンの審査落ちというあなたにはどうしようもない理由だったとしても契約解除できません。契約解除によって手付金が没収されたり、損害賠償請求されたりするかもしれません。
5.手付金と申込証拠金の違い
ここまで手付金についてお伝えしてきましたが、申込証拠金というものを聞いたことがあるかもしれません。
新築マンションの購入申し込みをするときには、申込証拠金として10万円程度支払われることもよくあります。ですが、申込証拠金は手付金とは違います。
売り手に対して、購入する意思があり、他の希望者よりも売買交渉を優先さえてもらうために預けるお金です。申込証拠金を支払っただけでは売買契約は成立していないので、あとから購入する気がなくなったという理由でも、返金してもらえます。
そして申込証拠金を払ったあとにそのまま売買契約まで結ぶと、手付金の一部に充当されます。
申込証拠金については、その返還をめぐってトラブルが多く大きな問題になったことがありました。不動産会社が返還しませんでした。ですが今は、申込証拠金の預り証には「契約不成立の場合には全額返還します」という内容を明記するように監督官庁から指導されているので、このようなトラブルは少なくなっています。
また申込証拠金は多くても10万円程度なので、10万円を大きく超える金額を要求された場合は注意しましょう。
6.まとめ
不動産契約における手付金についてお伝えしてきました。不動産売買は契約締結から物件の引き渡しまで長期にわたるものです。売り手も買い手も安心して契約を進められ、無用なトラブルを避けるために手付金は利用されています。
特に解約手付金は契約の自由度を高めてくれます。
ただし、仲介業者を通して売買するときは注意が必要です。売買契約自体は手付の放棄により、解除できますが、仲介業者は契約が成立した時点で仲介手数料を請求できるのが原則です。
そのため、契約解除をしたとしても、仲介手数料が発生する場合があります。ないにこしたことはありませんが、万が一契約解除があったときに仲介手数料はどうなるのかということも確認しておきましょう。