収益不動産を保有しているならば目指すべきは「収益の最大化」です。
その収益の最大化の為に最も肝心なこと、それが「賃料査定」。
その肝心要の「賃料査定」が、こんな風に導き出されているならば危険です。
- 部屋付けしてくれる仲介営業マンの言う通りに……。
- 管理会社の言うがままに……。
- オーナーが”えい!や!”の気合で……。
考えてみればわかることですが、「賃料査定」の金額が高すぎると、顧客からの支持は得られないので空室は解消されません。
逆に安すぎると空室は埋まるものの、当初試算していた売上が計上できないため、どちらにしても収益は改善しません。
空室を無くし、収益を上げるには、オーナー自身が市場の動向を理解した上で、適正な「賃料査定」ができるかどうかが肝になります。
1.賃料査定の方程式
収益の最大化を目指すなら、まず理解しておく方程式があります。
収益を上げようと思えば、売上を上げて費用を下げればいいわけです。単純です。
売上げを最大限上げる努力をして、同じく費用を最大限下げることに着手すれば、収益の最大化に近づきます。
一般的な商売での方程式は、
「売上=客数×客単価×購買頻度」になりますが
賃貸経営に置き換えると、
「売上=部屋数×賃料×入居期間」となります。
一般的な商売と、賃貸経営とで大きく異なる点は、「客数=部屋数」に限界があるということです。一般的な商売であれば、客数を増やすことは可能です。
しかし、賃貸マンションでは部屋数以上に集客をすることは原則できません(増築や、別の収益マンションの購入、民泊などの活用といった例外はあります)。
そのため賃貸経営では、値決めの重要性がより増します。賃貸経営は「客数(部屋数)」が決まっていて増やすことができない商売なので、適正な「賃料査定」ができるかどうかが売上げを大きく左右させることになります。
2.賃料査定の5つのポイント
こうした売上げを決定づけてしまうほど重要な「賃料査定」を間違いなく行うために必要になるのが、その物件が所在するエリアのマーケティング活動です。
市場の状況を的確に把握した適正な「賃料査定」に必要なエリアマーケテイングの5つのポイントをお伝えします。
ポイント①:人口の推移を知り、最適なターゲットと戦場を導き出す
物件が所在するエリアの人口の推移、世帯数比較、増減率を捉え、どの年代、世帯、性別を「ターゲット」にすることが最適なのかを読み取ります。
例えば、ひとくちに単身マンションと言っても様々です。男女別、年代別、生活リズムや職業など具体的な「ターゲット」をイメージします。その設定したターゲット層が、どういう手段で、いつどのように空室情報を仕入れ、どのあたりに出没するのかを分析し、戦場を決定します。
ポイント②:管理状態を知り、改善ポイントを導き出す
空室解消の決め手のひとつに、内覧時の物件の状態を見直し、整備することが挙げられます。
マンション共用部の清掃状態、共用廊下の電灯が切れていないか、空室内の保持状態が適切かなど、入居者を”お出迎えする”という視点で、成果のでる改善ポイントを導き出します。
ポイント③:求められる設備を知り、効果的な設備投資を進める
エリア、性別、年齢によって物件に求める設備は異なります。若い女性がターゲットだからとセキュリティ面の充実が効果的だと考え、”防犯カメラ”を設置したものの実際は”WiFi設備”の方が需要があった・・・などは、思い込み設備投資の典型的な悪例です。
効果的な設備投資は、その地域のターゲット層が求める設備を知ることが重要です。
ポイント④:ライバル分析から、物件の強みを導き出す
同じエリア内にあり、ライバルとなりえる物件の分析も重要ポイントです。「彼を知り己を知れば百戦殆うからず」です。
ライバル物件情報を収集分析し、自身の物件と比較してみて強み、弱みを導き出します。更なる強化対策、弱みの改善対策を検討し、賃料査定に反映させます。
ポイント⑤:上記4つの分析から、最適な賃料査定を導き出す
「市場は生き物」と言われます。時期、状況の変化によって変動します。賃料も同じです。賃料査定も変化に対応する柔軟性が必要です。
そのため賃料査定では、まず賃料「帯」を表す必要があります。賃料の上限と、下限の範囲の「帯」を査定し、その「帯」内で時期や環境条件に併せて賃料設定を変化させます。
今、このタイミングから募集して、入居成約を勝ち取ると決めた時期までに成果が出せる賃料を、賃料「帯」から導き出します。
3.賃料設定を具体例で考えてみる。
では実際に当社にいただいた「賃料査定」依頼を例に具体的な手法を見てみましょう。
人口分析・戦場分析
今回取り上げる賃料査定の依頼のあった物件は、大阪の天王寺区夕陽丘町の単身1Kマンション。
最寄駅:地下鉄谷町線四天王寺夕陽丘、築年数10年、構造:鉄骨ALC造階建て夕陽丘町は、土地柄、神社仏閣が多く閑静な場所。住みやすさには定評がある地域です。
まず、人口動態の分析では、国勢調査を元に年齢層、男女別、増減の推移を見ます。
人口動態を見る限り、単身世帯に特筆すべき特徴は見当たりませんでしたが、その中で、500m圏内で人口の動きを比較する”ミクロ分析”で、少し地域の特性が読み取れます。
増減率に注視すると男性と比べて女性の増加率が高いという結果が表れています。地域的な住みやすさも加味し、まず、単純に女性をターゲットと想定してみます。
女性の単身ターゲット層の部屋探しを想定した場合、最寄り駅の四天王寺前夕陽丘には仲介店舗がないことから、近接駅の谷町九丁目〜上本町が戦場になると判断します。
そのほか、仲介店舗が集中する天王寺、阿部野からの流入も期待できるので二次戦場として情報周知地域に設定をします。
管理改善ポイント
物件の清掃状態は、週2回の日常清掃と年2回の定期清掃でキレイに保持されています。改善ポイントを挙げるならば、退去後2ヶ月になる部屋が未だに原状回復工事が済んでいないこと。
これは早急に対処する必要があります。あと、リフォームが済んだ部屋が殺風景に感じるので、ひと工夫があればと言うところです。当社からは「室内案内設置ツール」として案内用のスリッパ、設備の説明アピールのPOPの張り出し、女性に喜ばれるフレグランスの設置などを提案。
設備投資分析
夕陽丘町地域で求められる設備は、
②ウォシュレット
③浴室乾燥機
という調査結果がでてきました。
当該物件には①の独立洗面台がないので弱みとなります。
しかしこの設置に対する設備投資をすべきかどうかは費用対効果(利回り)の面から慎重になるべきだと判断し、今すぐの設備投資は見送ることを提案。
費用対効果の面で、一階エントランスの照明が暗いことから、現管球をLEDへの交換を検討いただきました。少額の費用でエントランスの明るさが増すので、印象度のアップが効果的であると考えた提案です。
ライバル分析
現状でライバルと目される物件は9棟挙がりました。
とくにABCDは、設備需要度の高い「独立洗面台」が設置されているので、強力なライバルとなり、苦戦を強いられることが予測できます。実際よく成約に至っていると声も上がりました。その他の物件も当該物件と同程度、もしくはそれ以上の設備であることが判明。
それぞれの立地条件、部屋の広さ、設備状況等違いはあるものの、総合的にライバル物件の相場は、共益費込6万円前後、敷金ゼロ、礼金5万〜10万円、広告料2ヶ月と判断できます。
賃料査定、賃料「帯」決定
これら4つの分析から、賃料査定金額を算出します。
上限・下限を査定し、賃料「帯」を決定します。
分析結果から共益費込6万円前後のライバル物件が多数存在することがわかりました。特に需要度の高い「独立洗面台」の備えた物件も同金額での募集がなされています。
当該物件の強みである”部屋の広さ、駅徒歩2分”がどこまで対抗要件として戦えるかにもよりますが、端から弱気ではなく、あくまで強気の査定を行うことに。
敷金、礼金に関しては査定金額以上で成約できる可能性はあるものの、賃料とのバランスを考慮し設定。
当社の場合、募集してから70日間(10週)を期限としていますから、70日で成果をだすための募集賃料を、賃料「帯」から導き出します。室内案内設置ツールの設置や、エントランスの照明提案の承諾も含め、最終的に募集賃料を決定をうながします。
賃料査定がすべての基本
こうして導き出された「賃料査定」から、営業活動、効果的なリフォーム手法、室内演出などの具体的な戦術が生まれます。とにもかくにも、まずこの「賃料査定」が全ての始まりになります。この査定がいい加減だったり、間違っていると成果が出にくいばかりか営業活動そのものが無駄になるので、賃貸経営で「賃料査定」が肝心かなめであることを理解してください。