もくじ
核家族が増えて、単身の高齢者が賃貸物件に住むことも珍しくはなくなりました。
それに合わせて、孤独死が増えているのも現状です。賃貸経営中の物件で孤独死が起きることもゼロではありません。
そこでこの記事では、入居者が孤独死された場合の対応と、備えとしての大家向け保険を紹介しましたのでどうぞお読みください。
1.孤独死というのは自室で誰にも看取られずに亡くなること
核家族が増えてきた今、単身で住む住居で、ひっそりと亡くなられる方も多いです。特に身寄りがいない高齢者の場合は発見が遅れて、遺体の状況がひどいこともあります。
ニュースではよく「孤独死」という言葉で伝えられますが、厳密にはまだ定義があいまいです。ただ一般的には、「自室で」、「誰にも看取られず」亡くなることを指します。
独立行政法人再生機構が運営管理する賃貸住宅約74万戸において、死後1週間を超えて発見された件数は2015年度に179件(参考:http://www8.cao.go.jp/kourei/whitepaper/w-2017/html/zenbun/s1_2_6.html)となっており、高齢者の単身世帯が増えてきている今はもっと増えていると予想できます。
今まで、単身の高齢者が賃貸契約に来たとしても、基本的にはお断りしていたと思います。ですが、人口が減っている今、リスクが高かったとしても単身の高齢者を受け入れざるを得ない状況になっています。
そこで次からは、万が一、賃貸経営中の物件で孤独死が発生したときの対応について解説します。
2.賃貸物件で孤独死が発生したときの対応
住居者が孤独死されているのを発見したときには下記のようなことに注意して、対応を進める必要があります。
2-1.契約関係は終わらない、相続人が相続する
入居者が孤独死された場合、その部屋に住む人はいなくなってしまいますが、契約関係が終了するわけではありません。借主としての権利も相続財産に含まれるので、相続人が借主となって契約は継続しています。
そのため部屋の賃料は相続人に請求することになります。
そして孤独死が発生したからといって一方的に契約を解除することはできないので、相続人と話し合って継続もしくは解除を決めます。一般的に、孤独死が起きた部屋に住み続けたいという方はほとんどいないので、契約解除はスムーズに進めることができるはずです。
2-2.原状回復費用は相続人に請求する
発見が亡くなってから期間が立っていると、部屋に腐敗臭が漂っていたり、遺体の状態によっては部屋にシミがついていたり、害虫が発生していたりする場合があります。
そのため、孤独死を発見したら、すみやかに原状回復工事を進めることが大切です。原状回復費用の請求は新たに借主となった「相続人」もしくは、連帯保証人に請求することができます。
孤独死が起きた場合の原状回復では、通常のハウスクリーニングではなく特殊清掃と呼ばれるものが必要になり、費用も数十万円単位でかかります。そのため、相続人にとっては意図しない高額な費用となって支払いを渋る方もいらっしゃいます。費用は義務として支払わなければならないものですが、費用の支払いを受けるまでに時間がかかってしまう場合もあります。
部屋の状態を考えれば、一刻も早く原状回復はした方がいいです。そのため、相続人・連帯保証人に原状回復費用の請求をして拒まれたときでも、支払いを受け取る前に進めるようにしましょう。
費用を受け取っていないからといって放置していると、周辺に住む方々から損害賠償請求される可能性があるので注意してください。
2-3.孤独死が起きても損害賠償は認められない
孤独死が起きたことで家賃を値下げしなければならなくなったとき、オーナーとしてはその分の損害を補償する損害賠償請求をしたいと思うものです。ただ、孤独死の場合は、損害賠償が認められないことがほとんどです。
損害賠償は、入居者が部屋で自殺をした、というように、故意や過失によって亡くなっている場合に認められる傾向にあります。孤独死は自然死なので、故意や過失は認められず、したがって、損害賠償も認められません。
3.相続人が相続放棄したときの対応
故人に負債が多い場合には相続人となりうる方が全員、相続放棄する可能性もあります。その場合の対応についてお伝えします。
3-1.自己負担で原状回復費用を支払う
連帯保証人がいれば、原状回復費用は連帯保証人に請求すれば大丈夫です。しかし、連帯保証人がいない場合や相続人が全員相続放棄した場合には、一時的に請求できる相手がいない状態です。
それでも今後の賃貸経営を考えれば、部屋の原状回復は必須です。そのため、まずは自己負担で原状回復費用を支払うことになります。
3-2.相続財産管理人の選任申立を行う
相続人が誰もいなくなったとしても、その故人の財産は宙に浮くわけではありません。最終的には国のものになり、その故人の財産は、相続財産法人が管理することになります。
そして、法律上は、相続財産管理人を選任して、その相続財産管理人に請求します。しかし、相続財産管理人を選任するには予納金として裁判所に100万円を支払う必要があります。
そのため実務上は、原状回復費用は大家負担のまま、相続財産管理人を選任せずに契約も解除して、新しい入居者を募集することが多いです。
4.孤独死が発生した場合の告知義務について
賃貸経営中の物件で孤独死が起きたとき、事故物件として告知義務があるかどうか、明確な決まりはありません。孤独死はニュースになることも多いですが、自殺や事故死と違って自然死です。
そして死は生きていれば誰にでも訪れるものですから、入居中の部屋で自然死された場合、そのことは心理的瑕疵には当たらないというのが一般的な見解です。判例としても、半年前の自然死は、心理的瑕疵に当たらないとされています。
ただし、孤独死が起きて、すぐに見つかるのではなく、異臭騒ぎによって近隣で噂になっている場合は、その「騒ぎになっている」という事実が心理的瑕疵に当たる可能性もあります。
孤独死が起きた場合の告知義務については、亡くなったときに本当に故意・過失がなかったのかどうか、そして、周囲に悪い意味で噂が広がるほどの騒ぎになっているかどうかなどから考えていく必要があり、判断が難しいものです。
そのため、もし入居者に孤独死が起きて原状回復したあと、新しい入居者を探すときに告知義務があるかどうかは不動産会社に相談してみることをおすすめします。
5.【大家向け】孤独死に対応する保険
ここまで孤独死が起きたときの対応についてお伝えしました。孤独死は社会問題にもなっており、孤独死に対応した保険も出てきています。代表的な2つの保険を紹介します。
5-1.無縁社会のお守り(アイアル少額短期保険株式会社)
賃貸物件中の部屋で孤独死を含む死亡事故が発生したときに、補償してくれる保険です。
・原状回復費用は1事故最大100万円の補償
・事故後に借り手が亡くなった場合の家賃の損失を最長12ヶ月、1事故最大200万円補償
・原状回復費用保険金の支払対象とならない場合の見舞金5万円
というような内容です。
契約条件は、保有戸室が4戸以上で、すべての戸室で加入することです。そのため、ある物件の1部屋だけという契約の仕方はできないので注意が必要です。
保険料は1戸室あたり月払300円と、100戸室でも3万円なので、死亡事故が発生したときのリスクを考えると加入する価値はある保険だと言えるでしょう。
5-2.GK すまいの保険 家主費用特約
三井住友海上火災保険株式会社とあいおいニッセイ同和損害保険株式会社が共同開発した火災保険で、家主費用特約という特約が設定されました。これは、単身の高齢者に部屋を貸したときのリスクの高さから、審査が通りにくかった単身高齢者がより部屋を借りやすくなるようにという背景から作られました。
特約の内容としては、孤独死や自殺・犯罪死などの死亡事故が発生したときの大家が受ける損失の補償です。死亡事故が発生した部屋だけでなく、上下左右の隣接個室も補償の対象になることが大きな特徴です。
30日以上続いた空室期間内に生じた家賃の損失を最長12ヶ月、補償してもらえます。
6.まとめ
賃貸経営中の物件で孤独死が起きたときの対応方法と、孤独死に備える保険について紹介しました。
人口減少を避けられない日本で賃貸経営を続けるのであれば、これからは単身高齢者の入居も受け入れていかなければならない可能性が高いです。孤独死が起きてもすぐに気付けるように、物件の管理は丁寧に行う必要がありますが、万が一に備えて、孤独死の保険に入っておくこともおすすめです。
原状回復も特殊清掃が必要になり、通常よりも多くの費用が必要になります。孤独死を含めた死亡事故が起きることも、賃貸経営の1つのリスクとして受け入れて、事前に対応しておくようにしましょう。