不動産を財産分与すると、場合によっては財産を渡す側・もらう側どちらにも税金がかかることがあります。
この記事ではどんな税金がかかるのか、どういった場合にかかるのか、そして、節税するにはどうすればいいのかをお伝えしています。財産分与で余計な税金を払わないためにもぜひご覧ください。
1.不動産の財産分与にかかる税金
離婚の手続きを進めていくと財産分与について考えるタイミングがやってきます。原則として、妥当な金額であれば慰謝料や養育費、その他財産分与の現金に税金はかかりません。
しかし不動産や株式のように現金以外を財産分与する場合、資産の譲渡にあたり、税金がかかります。
不動産はその価額を評価するのも一苦労ですが、この記事では財産分与における税金についてお伝えします。
不動産の財産分与にかかる税金は、財産をもらう側・財産を渡す側の両方にかかります。わかりやすいようにそれぞれ区別して紹介するので、あなたの立場に合わせて参考にしてください。
2.財産をもらう側
まずは財産をもらう側にかかる税金をみていきます。
原則的には財産分与によって財産をもらう側に税金はかからないことになっています。ただし、場合によっては財産をもらう側にも贈与税と不動産取得税、そして不動産の取得に伴う不動産の登録免許税がかかってきます。
贈与税がかからない理由と、どういった場合に税金を納付する義務が発生するのか、詳しく紹介します。
2-1.贈与税
財産分与で得る財産はそもそも贈与とは異なるものとして解釈されます。財産分与は夫婦の共有財産をそれぞれが持つべき割合で分割したもので、新しく取得したわけではないからです。
そのため「贈与」とはみなされず、贈与税もかかりません。
しかし、財産分与で適当とみなされる金額以上の財産を分与された場合、その超えた分については「贈与」とみなされ、贈与税の課税対象となります。
ただ適切な金額というのはそれぞれの夫婦間の事情を考慮した上で決められるため、一概にいくら、と言うことはできません。
また、贈与税や相続税回避のための不正な離婚だと判断された場合も、その財産に対して贈与税が課せられることがあります。
2-2.不動産取得税
不動産取得税も贈与税と同様に、財産分与で適当とされる割合以上の不動産を譲り受けた場合に課税対象となります。たとえば、離婚後の一方の生活を援助するために行われた「扶養的財産分与」であったり、離婚による精神的損害を賠償するために行われた「慰謝料的財産分与」であったりした場合です。
課税対象とされた場合、不動産取得税は
- 土地が固定資産税評価額×1.5%
- 建物が(固定資産税評価額―1,200万円)×3%
となります。
また財産分与の取り決め時に、「贈与税・不動産取得税の支払いは分与した側が行う。」とすることもできるので、万が一の場合を考えて、離婚協議時には上記の項目を入れておきましょう。
2-3.不動産の登録免許税
贈与税・不動産取得税は原則としてかからないとお伝えしましたが、所有権移転登記を行うときにかかる登録免許税は、財産分与が原因として行われる場合でもかかることになっています。
登録免許税は分与された持分の固定資産税評価額×2%です。
不動産価格が高ければ高いほど贈与税・不動産取得税・登録免許税も高くなります。そのため高額な不動産を分与される場合、分与された側に高額の税が課せられることとなり大きな負担です。
ただしこのような税金については離婚協議書を作成するときに誰が税を負担するか、定めることができます。もし財産分与を受けても納税が難しい場合は事前分与する側に支払ってもらう合意をとっておく必要があります。
2-4.不動産の固定資産税
不動産を所有していると、翌年から固定資産税を支払うことになります。不動産を所有することとなった理由が財産分与だからといって免除されるものではありません。
固定資産税の価額は
・固定資産税評価額×1.4%
です。
固定資産税評価額5,000万円の不動産を分与された場合、固定資産税の支払いは70万円にもなります。
ただ住宅用地であれば特例が適用されて、200平方メートル以下の小規模住宅用地には6分の1、200平方メートルを超える一般住宅用地には3分の1の税率となります。
ですので、同じ評価額5,000万円の不動産だったとしても、190平方メートルの不動産だった場合は6分の1で10万円程度にも固定資産税は下がります。
3.財産を渡す側
財産分与では財産を受け取る側だけでなく、財産を渡す側にも税金が発生する仕組みとなっています。
3-1.譲渡所得税
財産分与のうち、土地や建物などの不動産を分与したときには、渡した側に譲渡所得税が課税されます。
ただし譲渡所得税が課税されるのは、財産分与したときの不動産の価格が、購入したときよりも高かった場合です。不動産の取得時と分与時の差額に対して譲渡所得税がかかります。
3-2.譲渡所得税の計算方法
不動産の所有期間が5年を超えるものについては長期譲渡所得として、5年以下のものについては短期譲渡所得として計算します。
たとえば不動産を取得したときの価額が5,000万円だったとします。財産分与したときの評価額が4,000万円だった場合、譲渡損失となり譲渡所得税はかかりません。このとき、損益通算することで一部税金が還付されることもあります。
逆に財産分与したときの評価額が9,000万円だった場合、4,000万円の譲渡益が生じ、さらにここから居住用の不動産ならば特別控除の3,000万円を差し引いた金額が譲渡所得税の課税対象です。
そして譲渡所得税の税率は下表のとおりです。
長短区分 | 短期 | 長期 | 長期 |
---|---|---|---|
期間 | 5年以下 | 5年超 | 10年超所有軽減税率の特例 |
居住用 | 39.63% | 20.315% | 1.課税譲渡所得6,000万円以下の部分:14.21% 2.課税譲渡所得6000万円超の部分:20.315% |
非居住用 | 39.63% | 20.315% | 20.315% |
先ほどの例で所有年数が8年だった場合、譲渡所得税を計算すると
(4,000-3,000) * 20.315% = 2,031,500
約203万円となります。
実際に不動産を売却して利益を得るわけではないですが、不動産の財産分与を行うとこのような計算をして税金が発生することになっています。税率も高く、不動産の価額が上昇している場合は大きな負担となるので注意が必要です。
4.不動産を売却した場合の税金
不動産を売却したときに得たお金は譲渡所得といいます。先ほどもお伝えしたものと同じですが、今回は現実のお金となるところが異なる点です。
このときの譲渡所得の計算は
です。
譲渡収入金額というのは、土地や建物の売却代金と固定資産税・都市計画税の精算金のことです。
取得費は
2.譲渡収入金額の5%
1,2のどちらか大きい方と決められています。
そして譲渡費用は仲介手数料や売買契約書に貼った印紙代、売却のために行った測量費や補修費、調査費用などの売約するための必要経費とみなされるものです。
また居住用不動産の売却の場合は3,000万円の特別控除の特例が適用されます。財産分与のための売却では夫婦共有で行うということが多いです。そうなると3,000万円の特別控除が2人に適用されて計6,000万円まで控除されます。
そのため不動産を売却した場合に譲渡所得税がかかることは稀です。税率は高いですが、そこまで気にすることがない税金と言えます。
5.財産分与のときに税金を減らす方法
5-1.配偶者控除を受ける
配偶者控除では、居住用財産を渡す場合に最高2,110万円の控除が受けられます。これは配偶者からの贈与2,000万円の控除と、贈与税の暦年課税の控除110万円の合計です。
離婚前に先に贈与することで不動産の時価を減らし、離婚後に分与することによって大きく譲渡所得税を減らすことができます。
配偶者控除を受けられる条件は、
- 夫婦の婚姻期間が20年を過ぎた後に贈与が行われたこと
- 居住用不動産であること
- 贈与を受けた年の翌年3月15日まで住んでおり、それ以降も引き続き住む見込みであること
の3つです。
この条件を満たしている場合に限り、配偶者控除を受けることができます。
5-2.特別控除を受ける
居住用の不動産を譲渡すると最大3,000円の特別控除を受けられます。ただし、夫婦や親子間での譲渡ではこの特別控除が適用されます。
特別控除を受けるためには、離婚して戸籍を別にしたあとで不動産の所有権を移動させるようにします。
5-3.長期譲渡所得税についての軽減税率の特例を受ける
財産分与を行う年の1月1日時点で、所有期間が10年を超えている場合、長期譲渡所得税について軽減税率の特例を受けることができます。この特例は、マイホームの買い換えや交換の特例など他の特例を受けていないことが条件ですが、3,000万円の特別控除の特区令だけは重ねて受けることが認められています。
この軽減税率の特例を受けると、
2.課税譲渡所得6,000万円超の部分:20.315%
の税率となり、通常の長期譲渡所得の税額よりも最大366万円ほど節税することができます。
6.まとめ
不動産の財産分与に関わる税金について紹介しました。財産分与で財産をもらう側は原則として税金がかかることはありませんが、それは夫婦の共有財産を分割する清算的財産分与のみです。
生活の支援や慰謝料としての財産分与の場合は贈与税、そして不動産取得税がかかります。
また財産分与で財産を渡す側も譲渡所得税が発生する場合があります。不動産は金額が大きい分、税金の負担も大きいです。計算してみて譲渡所得が発生しそうな場合は、この記事で紹介した節税方法が取れないかどうか検討してみてください。
ただ法律は適用の条件や期限など細かく変わっているので、実際に節税に取り組む場合は専門家に相談するようにしましょう。